scATAC-seq のアノテーション③ モチーフ・TF活性解析 ─ 細胞型を駆動する転写因子を見る

scATAC-seq
📚 この記事について
細胞型に名前を付けるのを補完し、その細胞型を「駆動している」転写因子を明らかにする解析です。
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📌 前提ピーク行列細胞型アノテーションが済んでいること

scATAC-seq(single-cell ATAC-seq/核を使う場合は snATAC-seq)のモチーフ・TF活性解析では、細胞型を「駆動している」転写因子を明らかにします。これはアノテーションを特徴づける補完のルートです。

1. モチーフ・TF活性とは


転写因子(TF)は、遺伝子のオン/オフを制御するタンパク質で、特定の短いDNA配列(モチーフ)に結合します。ある TF が活発な細胞では、そのモチーフを含む領域が開きます。

図1:TFとモチーフの関係(TFが活発だとそのモチーフを含む領域が開く)
図1:TFとモチーフの関係(TFが活発だとそのモチーフを含む領域が開く)

裏返すと、ある細胞型の開いた領域に特定のモチーフが多い(濃縮している)なら、その TF がその細胞型を駆動していると推測できます。これは細胞型に名前を付けるのではなく、何が動かしているかを明らかにする補完のルートです(①遺伝子活性・②ラベル転移で名前を付けた後に効きます)。

2. 2つのレベルがある


「TFを見る」には粒度の違う2つがあります。混同しないよう区別しておきます。

モチーフ濃縮(細胞型ごと) 細胞ごとのTF活性
問い この細胞型で効くTFは? このTFの活性は細胞ごとにどう違う?
粒度 細胞型(クラスタ)単位 1細胞ごとの連続スコア
代表 SnapATAC2 motif_enrichment(Python) chromVAR(R)
入力 マーカー/差次ピーク ピーク行列全体

3. コード:SnapATAC2 でモチーフ濃縮


本サイトの Python ルートはこちらです。各細胞型のマーカーピークを取り、そこに濃縮するモチーフを CIS-BP データベースで調べます(CIS-BP:Weirauch et al., Cell, 2014)。

python
import snapatac2 as snap
# 前提:peak_mat(細胞×ピーク)、obs['cell_type'] あり

# 1. 各細胞型のマーカー(特異的に開く)ピークを取る
marker_peaks = snap.tl.marker_regions(peak_mat, groupby="cell_type")

# 2. そのピークに濃縮するモチーフ(TF)を調べる(CIS-BP モチーフDB)
motifs = snap.tl.motif_enrichment(
    motifs=snap.datasets.cis_bp(unique=True),
    regions=marker_peaks,
    genome_fasta=snap.genome.hg38,
)

結果は「細胞型 × TFモチーフ」の濃縮スコアになります。各細胞型に、それを駆動する TF のモチーフが濃縮するのが見えます。

図2:モチーフ濃縮の結果(細胞型ごとに駆動TFのモチーフが濃縮)
図2:モチーフ濃縮の結果(細胞型ごとに駆動TFのモチーフが濃縮)

4. chromVAR の位置づけ(R の定番)


chromVAR は、細胞ごとにモチーフの活性(偏差スコア)を出す定番で、細胞間のばらつき(どの TF が細胞集団間で変動しているか)まで見られます(Schep et al., Nature Methods, 2017)。ただし R のツールです。Python で完結させるなら、まずは SnapATAC2 の motif_enrichment(細胞型ごと)が扱いやすく、細胞ごとの活性が必要なときに chromVAR を検討する、という順が現実的です。

5. 注意点


  • モチーフ ≠ 特定のTF1つ:同じファミリーの TF は似たモチーフを共有します(例:bZIP系)。モチーフからは「TFファミリー」までしか絞れないことが多いです。
  • 開いている ≠ 結合している:モチーフを含む領域が開いていても、その TF が実際に結合している保証はありません。
  • 裏取りが大事:候補 TF 自身の発現(RNA や遺伝子活性)が同じ細胞型で高いかを確認すると、信頼度が上がります。

まとめ


  • モチーフが濃縮する=その TF が細胞型を駆動している手がかり。名前付けを補完する。
  • 細胞型ごとの濃縮(SnapATAC2)と細胞ごとの活性(chromVAR)の2レベル。
  • モチーフはファミリーまで。TF自身の発現で裏取りする。

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参考文献


  • Schep, A. N., Wu, B., Buenrostro, J. D., & Greenleaf, W. J. (2017). chromVAR: inferring transcription-factor-associated accessibility from single-cell epigenomic data. Nature Methods, 14(10), 975–978. doi:10.1038/nmeth.4401
  • Weirauch, M. T., Yang, A., Albu, M., et al. (2014). Determination and inference of eukaryotic transcription factor sequence specificity. Cell, 158(6), 1431–1443. doi:10.1016/j.cell.2014.08.009
  • Zhang, K., Zemke, N. R., Armand, E. J., & Ren, B. (2024). A fast, scalable and versatile tool for analysis of single-cell omics data. Nature Methods, 21(2), 217–227. doi:10.1038/s41592-023-02139-9

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