Claude Science は、文献検索・データベース参照・コード実行・作図までを1つの環境にまとめた研究者向けのアプリです。2026年6月30日にベータ公開されました。
Windows 版は用意されていません。ただし Linux 版のバイナリが WSL2(Windows Subsystem for Linux)上で問題なく動くため、実質的に Windows でも使えます。作業は10分ほどですが、Ubuntu のバージョン選びを間違えると起動しません。この記事では、そこを含めて順に解説します。
1. Claude Science とは何か
これまで研究者は、文献を探すブラウザ、コードを書く Jupyter、計算を投げる端末、というように複数のツールを行き来していました。Claude Science はこれらを1つの作業環境にまとめ、自然言語での指示から解析の実行までを一続きで扱えるようにしたアプリです。
バイオインフォマティクス的に押さえておきたいのは次の3点です。
- 60を超える公開データベースに接続済み:Ensembl・UCSC・UniProt・GO・Reactome・gnomAD・ClinVar・GTEx・ENCODE・JASPAR・PDB・AlphaFold・GEO などに、各データベースの問い合わせ言語を覚えずに自然言語でアクセスできます。
- 解析手法が skill として同梱:AlphaFold2・OpenFold3・ESM-2・Evo 2・Borzoi・scGPT・scvi-tools などが呼び出せる状態で用意されています。
- 出力にコードと実行環境が紐づく:生成された図には、それを作ったコード・環境・作成手順の説明・全メッセージ履歴が付随します。数か月後に自分の図を再現・検証できる状態が保たれます。
接続部分の仕組みは MCP(Model Context Protocol)です。MCP そのものについては MCPとは何か と バイオインフォ系MCPサーバー完全ガイド を参照してください。DBCLS の生命科学データベースを扱う TogoMCP も同じ枠組みです。
2. 何がどこで動くのか
手順に入る前に、位置関係を押さえておくと迷いません。
Claude Science 本体は WSL の中で動きます。Windows のアプリとしてインストールされるわけではありません。画面はブラウザに表示されますが、これは Web サービスではなく、WSL の中で動いているプログラムに Windows 側のブラウザから接続しているだけです。解析対象のデータも、このパソコンから外に出ません。
Windows の中で Linux を動かす仕組みです。仮想マシンに近い形で Linux が起動し、Windows と同時に使えます。バイオインフォマティクスのツールは Linux 前提のものが多いため、Windows 環境ではこれが実質的な標準になっています。基本操作は ターミナルの基本操作入門【Windows版】 で扱っています。
3. 動作要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| Claude のプラン | Pro / Max / Team / Enterprise のいずれか |
| WSL のバージョン | WSL2(WSL1 では動きません) |
| Ubuntu のバージョン | 24.04 以降 |
| 空きディスク | 約 5 GB |
Claude Science はコードを隔離して実行するために bubblewrap という道具を使い、0.8.0 以上を要求します。Ubuntu 24.04 は 0.9.0 を同梱しますが、22.04 は 0.6.1 で足りません。この仕組みは省略できず、条件を満たさない場合は隔離なしで動かすのではなく起動を拒否します。
組織の管理者が Claude Science を有効化しないと、サインインの段階で止まります。所属機関の契約で使う場合は、先に管理者へ有効化を依頼してください。個人の Pro / Max プランであればこの手続きは不要です。
4. 手順① Ubuntu 24.04 を用意する
PowerShell を管理者として実行し、次を打ちます。
powershell
# Ubuntu 24.04 を導入する(WSL2 が既定で設定される)
wsl --install -d Ubuntu-24.04
再起動を求められたら再起動し、スタートメニューから Ubuntu 24.04 を開いて、Linux 側のユーザー名とパスワードを作ります。
既に別のバージョンの Ubuntu を使っている場合も、消す必要はありません。複数のディストリビューションを並存させられます。状態は次で確認できます。
powershell
# 導入済みのディストリビューションと WSL のバージョンを確認
wsl -l -v
# VERSION が 1 だった場合は 2 に変換する
wsl --set-version Ubuntu-24.04 2
5. 手順② 依存パッケージを入れる
ここからは Ubuntu のターミナルでの作業です。
bash
# 必要な道具をまとめて導入する
sudo apt update && sudo apt install -y curl bubblewrap socat
# バージョンを確認する。0.8.0 以上であること
bwrap --version
Ubuntu 24.04 ではなく古いディストリビューションのターミナルを開いています。スタートメニューから Ubuntu 24.04 を選び直してください。プロンプトの表示が同じに見えることがあるため、取り違えに注意します。
6. 手順③ Claude Science をインストールする
公式のインストーラスクリプトを取得して実行します。スクリプトは最新版をダウンロードしてチェックサムを検証し、claude-science コマンドを ~/.local/bin に配置します。
bash
# 取得してそのまま実行する(公式ドキュメント記載の形)
curl -fsSL https://claude.ai/install-claude-science.sh | bash
上の書き方は、取得したスクリプトを確認しないまま実行します。配布元を信頼する前提なら問題ありませんが、何をするスクリプトかを読んでから実行する方が確実です。その場合はいったんファイルに保存し、
less で中身を読んでから bash に渡します。ブラウザでバイナリを落として WSL にコピーする方法は避けてください。インストーラはダウンロードの検証を行い、安定版の系列に載せる役割も持っています。
導入後、コマンドが使えることを確認します。
bash
# PATH を反映してから動作確認
source ~/.profile
claude-science --version
コマンド名だけで実行できるようにするため、シェルが実行ファイルを探しに行くディレクトリの一覧です。インストーラが
~/.local/bin を追加した内容を、上のコマンドで現在のターミナルに反映しています。同様の環境構築の考え方は FastQC環境構築編(Linux環境・Conda版) でも扱っています。7. 手順④ 起動する
bash
# バックグラウンドで起動する
claude-science serve --port 8765 --no-browser --detached
# 動いていることを確認する
claude-science status
# ログイン用のワンタイムリンクを発行する
claude-science url
この順番が重要です。リンクを発行するコマンドは動いているデーモンに対して働くため、先に起動しておく必要があります。
表示された URL を、Windows 側のブラウザに貼り付けます。WSL2 が localhost を自動で転送するため、追加の設定は要りません。
--detached を付けずに起動していたためです。その場合はフォアグラウンドで動くため、ターミナルを閉じるか Ctrl+C を押した時点で終了します。リンクは1回限りで約3分で失効しますが、デーモンが動いてさえいれば何度でも発行できるので、ブラウザを開く準備ができてから発行する運用にすると時間切れに追われません。8. 手順⑤ サインインする
開いた画面で Claude アカウントにサインインします。API キーは必要ありません。
主ボタンを押すと、認証後の戻り先を信用できないという趣旨のメッセージが表示され、先に進めませんでした。WSL では Windows 側と Linux 側の両方に
localhost が存在するため、認証後に戻ってくる先が本当に自分かどうかをアプリ側が保証できません。そのため安全側に倒して拒否される場合があります。
この場合はサインイン画面の 「Paste code instead」を選びます。別画面でサインインすると認証コードが表示されるので、それをコピーし、Claude Science の画面に戻って貼り付けます。これで進めます。
認証コードの画面に「Claude Code に貼り付けてください」と表示されることがありますが、同じ認証の仕組みを使っているためで、そのまま Claude Science に貼って問題ありません。
9. 初回起動時の注意
サインインすると、実行環境と Python・R の初期パッケージの準備が始まります。数分かかり、約 5 GB のディスクを使います。
準備中はデータベース接続の読み込みが失敗することがありますが、多くは準備が終わると自然に解消します。「自動再試行が停止した」と表示された場合は、Settings > Connectors で該当コネクタをオフにしてからオンに戻すか、
claude-science stop してから起動し直してください。10. 起動したままにする
Claude Science は WSL の中で動いているため、WSL が停止すると一緒に止まります。最後の Ubuntu ターミナルを閉じると、しばらくして仮想マシンが停止します。
ターミナルを開かずに PowerShell から起動しておく方法もあります。
powershell
# PowerShell から起動する。この窓を開いたままにしておく
wsl -d Ubuntu-24.04 -- ~/.local/bin/claude-science serve --port 8765 --no-browser
停止と状態確認は次のとおりです。
bash
claude-science status # 稼働状況(pid・port・version)
claude-science stop # 停止
claude-science url # ログインリンクを再発行
11. 導入後に確認しておくこと
- コード実行が通るか:簡単な計算を1つ実行させてみます。コード実行は bubblewrap による隔離のもとで行われるため、ここが通れば環境が正しく整っています。
- データの保存先:プロジェクト・会話履歴・生成した図は、すべてホームディレクトリ直下の
~/.claude-scienceにまとまります。このフォルダを消すと、それらがすべて失われます。
既存の解析手順を skill として登録しておくと、以降のセッションが自動的に引き継ぎます。scRNA-seq の前処理 や scATAC-seq 解析、マルチオミクス解析 のように手順が定まっている作業ほど、登録しておく価値があります。
まとめ
- Claude Science に Windows 版は無いが、Linux 版が WSL2 上で動くため Windows でも使える。
- Ubuntu 24.04 以降が必要。22.04 以前では bubblewrap が古く起動しない。WSL2 であることも必要(WSL1 は不可)。
- 本体は WSL の中で動き、Windows 側のブラウザから localhost 経由で接続する。WSL2 が転送を行うので追加設定は不要。
- 起動は
serve --port 8765 --no-browser --detached、確認はstatus、リンク発行はurlの順。 - サインインでリダイレクトが拒否された場合は「Paste code instead」で認証コードを貼り付ける。
- 初回起動は環境準備に数分かかり、その間コネクタがエラーを出すことがあるが多くは自然に解消する。
- WSL が停止すると Claude Science も止まる。PowerShell から起動して窓を開けておく方法もある。
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参考文献
- Anthropic. (2026, June 30). Claude Science, an AI workbench for scientists. https://www.anthropic.com/news/claude-science-ai-workbench
- Anthropic. (2026). Claude Science documentation: Run on Windows with WSL. https://claude.com/docs/claude-science/run-on-windows-wsl
- Anthropic. (2026). Claude Science documentation: Overview and requirements. https://claude.com/docs/claude-science/overview
- Anthropic. (2026). Claude Science documentation: Get started. https://claude.com/docs/claude-science/get-started
- Microsoft. (2026). Install Linux on Windows with WSL. https://learn.microsoft.com/windows/wsl/install


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